2025.05.19

鳥取県×講談社が取り組む、地方創生の新しいかたち ~IP活用と人材育成がつなぐ未来~

「まんが王国とっとり」として知られる鳥取県が、2024年4月、講談社と連携し、デジタルコンテンツのクリエイターを支援するプロジェクト「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」を始動しました。

これは、講談社クリエイターズラボと鳥取県が連携し、「地方創生」と「デジタルクリエイター支援」を目的に2024年4月から2026年3月まで運営されるもので、全国から応募のあった166名の中から選ばれた5名のクリエイターが、「ビレッジメンバー」として境港市に移住。毎月20万円の創作支援費を受け取りながら、マンガ、ゲーム、音楽などの制作に2年間専念しています。

このプロジェクトは、かつて手塚治虫や藤子不二雄らが共同生活を送り、数々の名作を生み出した「トキワ壮」に着想を得た、いわば"鳥取版トキワ荘"とも言える取り組みです。こうした新たな試みは、地域社会にどのような変化をもたらすのでしょうか。鳥取県産業未来創造課の河原正史氏と、鳥取県まんが王国官房の岩谷圭氏にお話を伺いました。

岩谷圭 氏(写真左):鳥取県 輝く鳥取創造本部 観光交流局 まんが王国官房
鳥取県の知名度向上や観光誘客を図る施策「まんが王国とっとり」を推進。
県出身の水木しげる、谷口ジロー、青山剛昌の作品を軸にマンガIPを活用し、鳥取の地域活性化を図る。

河原正史 氏(写真右):鳥取県 商工労働部 産業未来創造課
鳥取県内での県内産業の育成などに取り組む鳥取県産業未来創造課にて、同県におけるDX推進やデジタルコンテンツビジネス創出などを担当。
「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」では、運用統括を担う。

地方発コンテンツ創出の新しいかたち 行政が創作活動を全面的に支援

――「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」の概要を教えてください。
河原:本事業は、県内から優れたクリエイターを輩出することを目的とした、移住型制作支援事業です。審査により選ばれた5名のビレッジメンバーに、活動支援金とシェアオフィスを提供。仲間と切磋琢磨しながら、創作に集中できる環境を整えました。さらに、講談社の編集者が各クリエイターのメンターとして伴走する点が大きな特長です。プロの視点から助言を受けられることで、確実なスキルアップが期待されます。

とっとりクリエイターズ・ビレッジ参加作家による作品
©OLDUCT/もあい ©秋鹿えいと ©HAZECODE(へいずこーど) ©もちよ ©なす

また、「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」は、単なる移住者支援にとどまらず、県内イベントを通じて、地域住民や在住クリエイターも巻き込むことにも注力しています。たとえば、県内のクリエイター向けイベントでは、「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」の活動を積極的に紹介。講談社クリエイターズラボの鈴木綾一部長や川野邊氏が頻繁に来県し、対話と交流の場を広げています。

講談社クリエイターズラボの鈴木、川野邊が参加したイベントの一例

このプロジェクトをきっかけに、鳥取県から日本や世界で活躍するクリエイターが育ってほしいと願っています。とはいえ、クリエイターが実力をつけ、世間から評価されるまでには年月がかかります。中長期的な視野をもち、クリエイター支援を続けていくことが大切だと考えています。

――プロジェクト発足の経緯を教えてください。
河原:
鳥取県の大きなブランド戦略として、2012年にスタートした「まんが王国とっとり」の取り組みがあります。これまで13年間にわたり、マンガIPを活用して国内外への情報発信と観光客誘致を推進してきましたが、次なるフェーズとして、より幅広い分野のクリエイター支援へと踏み出しました。

協業先を検討する中で、最もふさわしい相手として浮かび上がったのが講談社でした。鳥取県が誇るマンガの巨匠・水木しげる先生との深い関係性、そして「クリエイターズラボ」という専門組織を持ち、地方との協業にも意欲的。これ以上ないパートナーだと確信しました。

鳥取県が本気でクリエイター支援に取り組んでいることを、県民にも外部にもしっかりと伝えたい。その想いから、私たちは東京の講談社を訪れ、自ら協業の提案をさせていただきました。

――講談社と協業して、いかかでしたか。周囲の反応や印象を教えてください。
河原:講談社との連携は、県民にとって非常に大きなインパクトをもたらしました。特にプロジェクトのキックオフイベントはテレビニュースでも放映され、県内で大きな話題となりました。

日本海テレビニュースに取り上げられたキックオフイベント

なかでも、県内のクリエイターの卵たちにとっての刺激は非常に大きく、「誰もが知る大手出版社が、鳥取で本気の支援をしている」という事実に、強く心を動かされたようです。講談社という存在が一気に身近に感じられ、「自分もクリエイターとして挑戦できるかもしれない」という前向きな声が多く聞かれました。

また、鳥取に暮らしながら全国へと作品を発信していく具体的なルートを、はっきりとイメージできるようになった点も大きな成果です。夢が遠いものではなく、着実に手の届く距離へと近づいている。その実感が、未来へと続く希望として、県内に広がっていると感じています。

地域に広がる"創作の場"──クリエイターを育てる、地域の仕組みとは

――県内のクリエイターからも大好評だったというイベントについて、企画意図や内容を教えてください。
河原:イベントの狙いは、ビレッジメンバーのみならず、県在住の多彩なクリエイターたちと一緒に、県全体の「創作の土壌」を育てていくことにあります。「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」をきっかけに、多くのクリエイターが講談社や地域企業と交流を深めることで、「ともに鳥取県で創作活動を続けていこう」という空気を根づかせたいと考えました。

イベントのトークセッションでは、地域を代表する制作会社・米子ガイナックスや、クリエイター育成スクールのデジタルハリウッドSTUDIO米子といった地元企業と並んで、講談社にも「対等な立場での登壇」をお願いしました。「憧れの出版社が、地域企業と肩を並べて協業している」その姿が、県内のクリエイターたちにとって大きな励みになると考えたからです。こうした条件にも快く応じ、継続的に鳥取に足を運んでくださった講談社の皆様には、心より感謝しています。

――スタートから、そろそろ1年が経過しようとしています。現在の手応えはいかがですか?
河原:これまでのところ、非常に順調に進んでいると感じています。特に、以下の4点は明確な手応えとして挙げられます。

まず、「クリエイター育成」について。
当初より2年間のスパンで育成を想定していましたが、すでに成果の兆しが見え始めています。たとえば、ビレッジメンバーの一人であるHAZECODE氏は、2024年11月にホラーコメディゲーム『クソデカ囃子(ばやし)』をリリースしました。

HAZECODE氏は、2024年11月にホラーコメディゲーム『クソデカ囃子(ばやし)』をリリース

二つ目に「講談社と組むことで得られる話題性」
講談社との協業による話題性は非常に高く、各種メディアに多く取り上げられています。県民の関心も高く、イベント開催前から「講談社の編集者がどんな話をするのか」といった声が寄せられるほどでした。実際、2024年12月に実施したセミナーでは約80名が参加し、満席となりました。

三つ目は、「創作活動を通じて地域のつながりが生まれた」ことです。
たとえば、ビレッジメンバーの作品が地元企業のPRに活用される事例が生まれたり、地域のイベント「米子映画事変」に2名のビレッジメンバーが審査員として参加したりしています。イベント後の交流会も大盛況で、「普段出会えない人とつながることができた」「県内にこんなにクリエイターがいることが分かり刺激的でした」といった声も多数届いています。

交流会に参加した県内クリエイターたち。開催地の住民だけでなく、各地域から参加者が集まった

四つ目は、「クリエイターの創作意欲を掻き立てる、講談社のサポート」ですね。
講談社の継続的な関わりが、参加者だけでなく広く県内のクリエイターに良い影響を与えています。「とっとり産業未来フェス」で行われた相談会には、小・中・高校生の姿も多く見られ、相談後には本人や保護者、関係者から感謝のメールが複数寄せられたのが印象的でした。

鳥取県在住のクリエイターの相談に応える講談社クリエイターズラボ部長・鈴木


創り手に継続的な機会を──仕事の循環を生む仕組みづくりへ

――「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」のベースには、県のブランド戦略である「まんが王国とっとり」の取り組みがありますよね?
岩谷:
鳥取県は、2011年の「第13回国際マンガサミット」誘致をきっかけに、2012年に「まんが王国とっとり」を建国しました。鳥取県出身の水木しげる先生、谷口ジロー先生、青山剛昌先生を「まんが王国とっとり」の3巨匠と位置づけ、マンガ文化を軸とした観光・地域振興プロモーション活動を行っています。

たとえば、水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」を全面に打ち出した「米子鬼太郎空港」や「水木しげるロード」は、その代表例です。特に「水木しげるロード」は、年間150万人を超える来訪者を誇り、県内随一の観光地となっています。注目は、昨年リニューアルした「水木しげる記念館」や道路に配置した数々の妖怪のブロンズ像、日没とともに始まる夜間演出照明など。ぜひとも皆さんに見ていただきたいです。

「水木しげるロード」紹介動画

JR境線を走るラッピングカー「鬼太郎列車」、毎年3月に開催する「水木しげる生誕祭」も人気です。

境港と米子を結ぶJR境線を走る6種類の鬼太郎列車

――マンガIPを活用してブランディングを進める、鳥取県の強みは何でしょうか?
岩谷:「まんが王国とっとり」は13年間も継続した実績があり、一般的にも「鳥取県=マンガの県」としての認知度はかなり高いと自負しています。マンガIPを大々的に活用している県は少ないので、他県との差別化を図りやすいのも強みです。また、年月をかけて施策の規模・熟度も上がっています。

「水木しげるロード」は1993年に誕生して以来リニューアルを重ね、ブロンズ像の数が23体から178体に拡張。話題性もあり、今や観光客数は鳥取砂丘よりも上回っているほどです。

――着実に成果を挙げている「まんが王国とっとり」ですが、現在直面している課題はありますか?
岩谷:これまでは3巨匠の功績に支えられてきましたが、今後は「次の世代の作り手」をいかに生み出すかが最大の課題です。既存のマンガIPを活用するだけでなく、ゲーム、CG、音楽など、幅広い分野のクリエイターを支援し、県を象徴する新しいIPを誕生させたいという想いがあります。

並行して、「クリエイターの働く場所不足」も解決しなければいけません。クリエイターが育成した後に県内に仕事がなかったら、人材は他県に流出してしまいますから。

そうした課題解決に向け、「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」は重要な布石となると考えており、今後はこの仕組みを活用して新たなIPと人材、仕事を立体的に育てていくことが必要だと考えています。


人材とIPの育成が、鳥取を"発信地"へと育てる──長期的視点の地域戦略

――課題解決には、行政・企業・クリエイターの連携がカギを握りそうですね。
河原:まさしく、企業とクリエイターのつなぎ役となるのが、鳥取県のミッションだと思っています。人材育成は講談社の力をお借りして推進しつつ、鳥取県は「セミナーや交流会などを通して、企業とクリエイターをつなげていく」。

今はまだ初期段階ですが、クリエイターに力がつき、地域企業との関係性が深まっていけば、きっと大きな変化が起こるはずです。「こんなクリエイターがいるんだ」「採用動画をつくってもらおう」「企業ロゴをつくってもらおう」など、連携がどんどん広がっていくことを期待しています。

その兆しは、徐々に現れ始めています。たとえば、境港市にある「夢みなとタワー」の紹介マンガを、ビレッジメンバーの秋鹿えいとさんが制作。今後もこのような事例をさらに増やしていきたいと考えています。

ビレッジメンバーの秋鹿えいと氏が制作した「夢みなとタワー」の紹介マンガ


――未来につながるプロジェクトで、展開が楽しみですね。今後の展望をお聞かせください。
河原:これまで「まんが王国とっとり」として築いてきた実績を基盤に、講談社との協業により、IP×育成×地域をつなぐ取り組みに進化させることができました。将来的には、鳥取県が国内外から「クリエイターが集まる場所」として認知される、「クリエイター王国」になることを目指しています!

鳥取県と講談社による協業は、まだ始まったばかりです。「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」は2026年3月で一区切りを迎えますが、その後も形を変えて続行すべきだと考えています。鳥取県としては、今後も講談社と継続して協業をしていくことを熱望しています。

HAZECODE氏(ゲーム)、もちよ氏(動画/CG)、秋鹿えいと氏(マンガ)、OLDUCT氏(音楽)、なす氏(マンガ)の活躍に期待!

インタビュー・文/佐藤理子(Playce) 編集・コーディネート/加藤大二郎(C-station)

加藤大二郎 エディター・コーディネーター

C-stationグループのBtoBコミックIP情報サイト「マンガIPサーチ」担当。

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